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 東京芸術大学大学院に映像研究科映画専攻が設置されて、今年で20年となる。日本で初めての国立の映画教育機関だ。米アカデミー賞国際長編映画賞も受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督を筆頭に、修了生たちが世界3大映画祭でも目覚ましい実績を上げている。ところが「才能の卵」を育てあげた撮影スタジオはなくなり、予算も減少するなど、関係者からは先行きを不安視する声が漏れている。何が起こっているのか。

 北野武、黒沢清両監督をはじめ、撮影や脚本、プロデュースなどの最前線で活躍するプロを教員として招き、2005年4月に映画専攻が新設された。今年度で20年目になるのを記念して昨年10月末、横浜市中区の同大馬車道校舎で2期生の濱口監督を招いてのトークが催された。

 聞き手を務めた、映画専攻長で映画監督の筒井武文教授は「当初は2年に1人は撮り続けられる監督が出ればいいねと話していた」と明かしたが、実際は数多くのプロが輩出した。

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記念イベントで対談する濱口竜介監督(左)と筒井武文教授=2024年10月14日、横浜市中区、小峰健二撮影

 濱口監督の他にも「ディア・ファミリー」の月川翔(1期)、「東南角部屋二階の女」の池田千尋(同)、「違国日記」の瀬田なつき(2期)、「宮本から君へ」の真利子哲也(3期)、「三度目の、正直」の野原位(同)、「熱のあとに」の山本英(12期)ら各監督が、映画やテレビの第一線で活躍している。

修了生は国際的にも活躍

 修了生は近年、国際映画祭の常連でもあり、世界的な評価を得ている。

 23年のベルリンでは、太田達成監督(10期)の「石がある」と清原惟監督(11期)の「すべての夜を思いだす」が公式選出された。24年のベネチアでは五十嵐耕平監督(8期)の「SUPER HAPPY FOREVER」が喝采を浴びた。

 ハイライトは、濱口監督による「偶然と想像」「ドライブ・マイ・カー」「悪は存在しない」の3大映画祭すべてでの受賞だろう。日本では黒澤明監督しかなし得ていなかった偉業だ。

 こうした実績を受け、トークの中で筒井教授が濱口監督に冗談とも本気とも取れる発言をした。

 「濱口スタジオを作ってほしい」

 ハリウッドに監督を送り出している南カリフォルニア大学(USC)を視察した筒井教授によると、同校には、ジョージ・ルーカスやロバート・ゼメキスら有名監督の名を冠したスタジオが並んでいたという。監督本人による寄付で作られ、学生はプロ顔負けの恵まれた環境で映画製作をじっくり学んでいるという。

 濱口監督は「それは相当稼がないといけない」と笑って応じたが、筒井教授は2週後にあった瀬田監督とのトークでも「瀬田スタジオを作ってよ」と水を向けた。

 筒井教授が、こう言いたくなる理由がある。

スタジオ利用の更新できず

 設立翌年、馬車道校舎からほ…

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